深江北町遺跡から東大寺大仏建立に関わる寄付活動を記した木簡が見つかる |
(阪神電鉄の高架化事業に伴ない実施)した深江北町遺跡から
東大寺大仏建立に関わる寄付活動を記した木簡2片が見つかったと発表した。
寄進の裏付けになり得る資料が見つかったのは、全国で初めてという。
神戸新聞では4月11日の朝刊1面で取り上げ、朝日、読売でも取り上げられました。
その内容を簡単に紹介していきます。
深江北町遺跡は平成12年度(2000)の第9次調査が実施され、2003年に市教委から
「深江北町遺跡第9次埋蔵文化財発掘調査報告書」が刊行報告されています。
発掘場所は阪神芦屋駅西、マンション「ライオンズガーデン芦屋西」付近である。
その成果から深江北町遺跡がその北部に位置する芦屋市の津知遺跡と共に「葦屋駅家」
に関連する遺跡と見られ約30点の馬の骨が出土し年代が8世紀~9世紀と比定された。
もた、「椋人(くらひと)安道」と書かれた木簡が出土。渡来人の「葦屋倉人(くらひと)」
と一致するのが注目される。同じく木簡から承和(834-848年)の銘があるものも出土。
勘合木簡、呪符木簡、荷札木簡の出土で役所の存在が強く示唆される。
葦屋駅家(あしやうまや)及び地方の役所(官衛とか郡衛と呼ばれる)が存在したと
思われる。
今回の記者発表では東大寺大仏建立に関わる寄付活動を記した木簡2片の解析結果が
一番注目されるところである。
記者発表資料をベースとして紹介します。
1.発掘現場
神戸市東灘区深江北町1・2丁目 阪神電車高架化工事敷地内
(阪神深江駅・芦屋駅間路線敷内 現在工事中で立ち入りはできません)
2.今回の調査
調査期間 平成23年5月9日~平成24年2月17日
平成24年4月4日~平成24年8月7日
調査面積 約2,000平方メートル
3.出土の木簡について
2つの木簡もとは1つであったものと考えられる。
木簡1(上部)に書かれた文字 幅3・8cm、長さ13cm
表面
咒願師□朝臣□成 咒(まじない)
「咒願師(じゅがんし)」=法会のとき、呪願文を読む僧侶
「朝臣(あそん)」=有力氏族に与えられた姓
亀 智識 智識 出家していない信者が仏教の事業に財物などを寄進
知識とも書く。善知識の略で、在俗の仏教信者のこと。
仏教事業や行事に財物や労力を提供し、その功徳にあずかろうとする
人々や団体、またその行為や意志そのものを指すことも多い。
裏面
裏面には大仏建立が本格化していた747年を指す「天平十九年八月一日」と
読める文字があった。
木簡2(下部)に書かれていた文字 幅4.3cm 長さ43cm
複数の寄付者の人物名と 「銭一文」「廣足二文」「十文」などの金額が列記
「廣足(ひろたり)二文(1文は現在の価値で40~50円)」
4.関連年表
慶雲3 (710)年 平城京へ遷都
天平15 (743)年 大仏建立の詔(滋賀県甲賀寺)
天平17 (745)年 僧行基大僧正となる。東大寺大仏造立開始
天平19 (747)年 東大寺大仏鋳造を開始。
大仏造立のための知識への献物による最初の叙位。
天平勝宝1(749)年 行基没・東大寺大仏鋳造を終了
天平勝宝4(752)年 大仏開眼供養会
5.独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所
都城発掘調査部 史料研究室長 渡辺晃宏氏のコメント
1)葦屋駅家関連遺跡であることの確実な証拠が得られたこと
駅長宛の命令を伝える文書木簡とみられる木簡や「駅」の墨書土器の出土によって、
深江北町遺跡が山陽道の葦屋駅家に関連する遺跡であることがほぼ確実になった。
また、「大垣」「大垣官」などの墨書土器は駅家の機構や構造を考える手がかりに
なる可能性があり注目される。
2)葦屋駅家の広汎な機能を示すと見られる木簡が出土したこと
一方、論語の習書木簡や数多くの墨書土器・転用硯の出土は、役人たちの活発な事務活動
を示す資料である。人名列記の木簡や米の数量を記したとみられる木簡、戸主名を
記した木簡などは、駅家が地方行政の末端を担う機構として機能していた可能性を示す
資料として重要である。
3)大仏鋳造の時期の智識銭に関わる木簡が出土したこと
そうした中で、天平十九年の年紀をもつ知識銭に関わる木簡は、東大寺大仏鋳造の
ための智識活動が活発に行われていた時期のものであり、駅家のような機構が
それに関わっていた可能性を示す注目すべき資料である。
4)深江北町遺跡の遺跡としての広がりが一層顕著になったこと
深江北町遺跡出土の文字資料からわかるこうした活動は、これまで考えられていた
駅家の活動範囲を大きく超える内容である。これまでに兎原郡家に関わるとみられる
内容の文字資料は見つかっていないが、静岡県伊場遺跡のように駅家と郡家が近傍に
位置する事例も知られているので、そうした観点から周辺の遺跡を検討していく
視点も必要になってくるであろう。
習書木簡⇒手習いの目的で使われた木の札またはそのためのテキスト。
転用硯 ⇒土器の椀や皿などを硯として使用したもの。
知識 ⇒智識とも書く。善知識の略で、在俗の仏教信者のこと。仏教事業や行事に
財物や労力を提供し、その功徳にあずかろうとする人々や団体、またその行為や
意志そのものを指すことも多い。
6.木簡の公開
展示: 神戸市埋蔵文化財センター 春の企画展示 『神戸発掘最前線』
近年の発掘調査によって出土した資料を、テーマごとにわかりやすく展示しています。
例年、この展示期間中に市内の約半数の小学校が見学に来ています。
展示期間:平成25年4月13日(土)~6月2日(日)
休館日:5月13・20・27日
開館時間:午前10時~午後5時(入館は4時30分まで)
7.講演会(説明会)
5月18日(土)14:00~15:30 於:神戸市埋蔵文化財センター
8.問い合わせ
展示に関する問い合わせ先
神戸市埋蔵文化財センター 担当 斎木 電話番号 078-992-0656
資料に関する問い合わせ先
神戸市教育委員会社会教育部文化財課 担当 前田・谷・小林
電話番号078-322-6480 内線6425・6426
郷土史探訪ツーリズム研究所(神戸・兵庫の郷土史Web研究館)
代表 中嶋邦弘氏のサイトで葦屋駅屋~野磨駅家(赤穂郡)まで地図と簡潔な説明あり
リンクさせていただきます。
http://kdskenkyu.saloon.jp/tale18uma.htm
兵庫県立考古博物館の展示でも兵庫県内の駅家と郡衛に関する展示があります。
上の写真は兵庫県立考古博物館の展示で「兵庫県内の駅家と郡衛に関する」もの
布勢駅家では敷地が80m×80m程度の規模であったことが確認されています。