ヒト歯乳頭からの幹細胞及び利用方法 特開2006-238875 その3 |
【公開番号】特開2006-238875
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願番号】特願2005-302404(P2005-302404)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【優先権主張番号】特願2005-28552(P2005-28552)
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【発明者】 【氏名】池田 悦子、大串 始
上記特許の詳細の内容について前回のBlogには字数オーバーしてしまったので
後半部分の続きを載せます。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に
限定されないことはいうまでもない。
実施例1)
(ヒト歯乳頭由来間葉系細胞の分離)
骨性埋伏第3大臼歯抜歯時に摘出される歯胚(歯乳頭と歯小嚢)を、10%抗生剤入り
PBSにて十分に洗浄後歯乳頭と歯小嚢を分離し、コラゲナーゼをPBSに溶解させた
0.04%コラゲナーゼ液中で歯乳頭を細かく切り刻む。その組織懸濁液を37℃に
設定した振とう機で30分間振とうさせ、細胞培養用のα-MEM培地
(Minimum Essential Medium-α)を加える。作製し
た細胞懸濁液を遠心分離機を用いて1500rpm、5分間遠心分離させ、上清を取り除いた後
、残留物にα-MEM培地を加えて再懸濁させる。5x105個の細胞を13mlのα-MEM培地に懸濁
しT-75のフラスコに播種し37℃、5%CO2に設定したインキュベーター内にて培養する。
以後、週に数回培地を交換するごとに浮遊細胞が除去され、フラスコに接着する
間葉系幹細胞が増殖する。
実施例2)
(ヒト歯乳頭由来間葉系細胞のクローン化)
歯乳頭から分離採取された細胞から間葉系細胞を前記のごとく増殖させたのち、
希釈法によりクローニングを試みた。これにより、一つの歯乳頭より、
36のクローニング細胞が得られ、150日間増殖しつづけたデータが確認され(図5)、
その後も増殖し続けている。
歯乳頭由来の間葉系幹細胞1個から、150日間の培養で1×1018個を超える
数まで増殖可能であることを確認した。
【0055】
このように、歯乳頭由来間葉系幹細胞から種々のクローン細胞が得られる。
【0056】
歯乳頭由来間葉系幹細胞の表面抗原発現を調べた結果を図11に示す。
歯乳頭由来間葉系幹細胞の表面抗原発現パターンは、CD29+,CD34-,
CD45-, CD90+及びCD105+であった。
【0057】
また、歯乳頭由来間葉系幹細胞と骨髄由来の間葉系幹細胞と歯小嚢由来の
間葉系幹細胞の増殖能をWST-1法にて比較した結果を図12に示す。
図12は、歯乳頭由来間葉系幹細胞の増殖能が明らかに大きいことを示す。
実施例3)
(骨細胞への分化)
歯乳頭組織から分離採取された間葉系幹細胞の培養時の培地交換の際に
100nMデキサメサゾン、10mM β-グリセロ燐酸、20.5μg/ml ビタミンCを添加し
14日間分化誘導させ、骨組織の修復部に移植して組織の再生を行う。
本細胞は、骨細胞に特徴的なアルカリファオスファターゼ活性(ALP活性)を示し(図6)、
カルシウムの沈着を示すアリザリンレッド染色にて染色された(図7)。
また、歯乳頭、歯小嚢及び骨髄由来の間葉系幹細胞の石灰化度を、
カルシウム親和性蛍光色素(カルセイン)を加えて培養し、その蛍光強度(カルセイン値)
を用いて比較した結果を図13に示し、骨分化誘導による歯乳頭及び歯小嚢由来の
間葉系幹細胞のオステオカルシン(骨特異的タンパク質)の発現量の比較を図14に示す。
【0058】
歯乳頭由来の骨細胞は歯小嚢、骨髄由来の骨細胞と比較して石灰化度が有意に高く、
オステオカルシンのタンパク量は9倍近く高値であり、歯乳頭由来の間葉系幹細胞が
骨への分化誘導能が著しく高いことが証明された。
実施例4)
(歯乳頭から分離採取された間葉系幹細胞と生体材料との複合体による骨組織の再生)
骨再生に関しては、歯乳頭由来の培養間葉系幹細胞を1×104~1×106 cells/
mLに調整し、水酸アパタイト、多孔質の三燐酸カルシウム等のリン酸カルシウム系セラ
ミックおよび多孔体の炭酸カルシウム、表面多孔体構造を持つアルミナ、チタンを
主成分とする生体用金属に一様に播種する。その後、定期的にβ-グリセロ燐酸、
ビタミンC及びデキサメサゾンを添加した培地の交換を行い、7日以上28日未満の間
培養し免疫不全ラットへ移植し、骨組織を確認する(図8)。
実施例5)
(軟骨細胞への分化)
歯乳頭由来の培養間葉系幹細胞を15mlファルコンチューブの中に
3×105の細胞を入れ4℃ 900rpm 5minにて遠心しペレット作製。
DMEM培地(high glucose)に100nM デキサメ
サゾン、50μg/ml ビタミンC、6.25μg/ml ITS(インシュリントランスフェリンセレニウム)、
5.33μg/mlリノレン酸、 1.25mg/mlウシ血清アルブミン、100μg/ml ピルビン酸 Na、
40μg/ml L-プロリンを添加した培地にて培養し、培地交換ごとに10ng/ml TGF-β3
、 125ng/ml BMP-2(骨形成蛋白)を添加し培養することで、軟骨細胞への分化が確認できた。
軟骨細胞分化の確認はトルイジンブルー染色にて確認された。
実施例6)
(肝細胞への分化)
歯乳頭由来の培養間葉系幹細胞をさらにDMEM培地(low glucose) に
1.0g/l ITS(インシュリントランスフェリンセレニウム)、1mg/mlウシ血清アルブミン、
10nM デキサメサゾン、20ng/ml HGF(肝細胞増殖因子) および10%ウシ胎児血清
(FBS)を添加したものを用いた。この培養によりすべての細胞からアクチンの発現が
みられたが、肝細胞の合成蛋白であるアルブミンの発現が見られない細胞も
HGF(肝細胞増殖因子)添加によりアルブミンのmRNA
の発現が確認され、肝細胞への分化が確認できた。(図9)
実施例7)
(脂肪細胞への分化)
歯乳頭由来の培養間葉系幹細胞を15%ウシ胎児血清(FBS)を含有した
細胞培養用のDMEM培地(low glucose)にて培養後、DMEM培地に1μMの
デキサメサゾン、0.5 mMのメチルイソブ
チルキサンチンを添加した培地にて3日間培養し、DMEM培地に10μg/mlの
インシュリンを単独添加した維持培地と交換して1日培養し、同処理を2回繰り返して
1週間維持培地にて培養すると脂肪細胞への分化がみられた。脂肪細胞への分化は
オイルレッドO染色による染色にて確認された。
実施例8)
(神経細胞への分化)
歯乳頭由来の培養間葉系幹細胞を20%ウシ胎児血清(FBS)を含有した細胞培養用
のDMEM培地(low glucose)にて培養後、20%ウシ胎児血清(FBS)を含有した
細胞培養用のDMEM培地に1mM β-メルカプタノール(BME)を添加したもので
24時間培養し、PBSにて洗浄後しDMEM培地に1-10mM BMEを添加したもので
培養後、DMEM培地に2% DMSO (dimethylsulfoxide)
、200μM BHA (buthylated hydroxyanisole)を添加したもので培養し
神経細胞に分化させる。これにより神経幹細胞のマーカーであるネスチンを強く発現
する細胞が現れ、さらに培養を続けると神経細胞を想定される細胞突起を有する
多数の細胞がみられた。(図10)実施例9)
さらに、歯乳頭由来の培養間葉系幹細胞をDMSO(dimethylsulfoxide)が
含まれる細胞保存液にて再懸濁し-80℃以下の冷凍庫にて凍結保存させる事が
可能であるが、表1に示すように少なくとも2ヶ月以上-80℃以下の冷凍庫にて
凍結保存し解凍した細胞の生存率は90%以上であることが確認された。
【0059】
歯乳頭組織から分離採取された間葉系幹細胞細胞をDMSO(dimethylsulfoxide)が含ま
れる細胞保存液にて再懸濁し-80℃以下の冷凍庫にて凍結保存させ解凍後の細胞の生存率
を示す表。少なくとも2ヶ月以上の凍結保存した細胞はいずれも90%以上の生存率を示す。
【0060】
【表1】
凍結保存期間 細胞生存率
2ヶ月 99.80%
3ヶ月 99.86%
5ヶ月 99.90%
4ヶ月 99.90%
【0061】
なお、神経幹細胞についても、凍結保存歯胚ないし凍結保存歯乳頭を解凍後の細胞生存率は
90%以上であると予測される。
実施例10)
歯乳頭をDMEM/F12 mediumに20ng/ml EGF(epidermal growth factor),
20ng/ml FGF-basic(fibroblast growth factor-basic),10ng/ml LIF
(leukemia inhibitory factor)および20μl/ml B-27 supplementを加えた培地にて
浮遊培養して得られたNeurosphere(細胞塊)をpoly-L-ornitineにてコーティングした
培養容器にプレートし浮遊培養の培地からEGF(epidermal growth factor),
FGF-basicおよびLIFを除き、1%FBS(ウシ胎児血清)を加えて2週間培養すると、
グリア細胞のマーカーであるGFAP(grail fibrillary acidic protein)
を発現する細胞が認められた。
【0062】
図15に、Neurosphere(細胞塊)を示し、図16にグリア細胞(アストロサイトの一種
)を示す。
実施例11)間葉系幹細胞の膵臓細胞への分化
歯乳頭由来の培養間葉系幹細胞を、20%ウシ胎児血清(FBS)を含有した細胞培養用の
DMEM培地(high glucose)にて24時間培養した。その後、20%ウシ胎児血清(FBS)を
含有した細胞培養用のDMEM培地(high glucose)に10ng/ml b-FGF
(線維芽細胞成長因子)を添加したもので24時間培養し、続いてDMEM培地
(high glucose)に1% DMSO(dimethylsulfoxide)、100μM BHA (buthylated hydroxyanisole)、10nmol/ml exexdin-4(糖尿病薬の1種)を添
加したもので24時間培養する。さらに10%ウシ胎児血清(FBS)を含有したRPMI培地
(Gibco)に11.1mmol/l グルコース1mM、10mmol/l HEPES、
1.0mmolピルビン酸ナトリウム、20ng/ml b-FGF、 20ng/ml EGF(上皮細胞成長因子)、
10nmol/ml exexdin-4を添加したもので4日間培養する。最後に、
RPMI培地(Gibco)に2.5mmol/l グルコース、10mmol/l HEPES、
10mmol/l ニコチンアミド、100pmol/l HGF(肝細胞増殖因子)、
10nmol/ml exexdin-4、activin-Aを添加したもので7日間培養し膵臓細胞に分化させる。
これにより膵臓β細胞に特異的なマーカーであるISL1のmRNAの発現が見られ、
膵臓細胞に分化したことが確認された。
実施例12) 歯乳頭由来の培養間葉系幹細胞の未分化マーカーの発現
歯乳頭由来の培養間葉系幹細胞のクローニングによって得られた細胞のmRNAの
発現を調べたところ、ES細胞の未分化マーカーであるOct-4、Rex-1、Nanogの発現が
みられ、歯乳頭由来の培養間葉系幹細胞がES細胞様の未分化な細胞であることが確認された。